彼にしかできない事

遅ればせながら、ですが、8日に放映された「Dのゲキジョー」を見て*1、思ったことです。
なにしろバラエティー番組を見るのなんて年に数回なので、変な番組ではないかな、飽きちゃうかもしれないな、ご飯を食べながらで咽ちゃったらどうしよう、とか両親の前で泣いちゃったら/笑っちゃたらどうしよう、とか。
でも、そんな心配御無用の、いい雰囲気の番組でした。

番組の流れや内容についてはyayaさんはるきさんせいかさん春華さんミンミンさん等何人かの方が記事を書いていらっしゃいます。


例によって目や耳が捉えた細かいこと

  • テレビガイドの写真に写っていたように、お扇子を手に登場。秋の装い、着物は緑がかった鼠色。昼のテレビでも思ったが、腰からちょこっと曲げるお辞儀をする、というか、それしかしない。3〜4度軽く。
  • 冒頭から玉三郎さんのコメント。玉三郎さんが出てくると、ひきつけられて、顔がほころんで、どきどきしてきてしまう。金の縁取りの鏡台(横の筆立てに筆が何本か?)と金に物語絵がいくつか描かれている屏風。楽屋とは思えない空間。春猿さんはとにかく真面目な顔で。
  • VTRの時、わりとピーターさんとよく雑談していた様子が映っていたので、スタジオで軽くしゃべっている内容が気になった。楽屋を映す時は「汚いから見せたくない。」とか、お化粧の時は「恥ずかしい。」とかいっているのがマイクに入っている程度。
  • 舞台映像は鐘撞き堂の上にいる白雪姫が何度か。それに加え、立ち回りの場面が映ったのはとても嬉しかった。あのお芝居で、一番好きな“映像”と言えるかもしれないのだから。なんだろう、直線的な動きをする場面。
  • スッポンへの入りの表情は、始めて見るものでした。一度だけ一等席を取った時は確か、まっすぐ前の上の方を見据えていらした気がしたが、この映像では眉根を寄せた憂い*2のある表情で右下に視線を向けながら、だった。相変わらずスッポンは“ガッタン”だった。
  • 楽屋入りは黒のシャツに黒の上着を腰に巻いたスタイルで、ドキドキした。なんだろう、後姿が・・・女っぽい、のかな。スタジオではとても男っぽくていらしたので、よけいに不思議な感じがした。軽く首を右に曲げるのがやはり、癖のようだ。それにしても、やっぱり歩くのが早い。
  • まぶたに薄く紅を入れるときに口紅を取った・・・というより、ちょっと筆を舐めていらしたのに目が行ってしまった。舞台とは違う、役者の顔だ。口紅は真っ赤ではなくてうす〜く? と不思議に思っていたら、顔全体が血色の良い感じで、どうやら幕開のお化粧をしていらしたらしい。完成したお顔を見ると、頭も衣裳も着けていないのに確かに白髪の百合の顔になっている。舞台で見ると前半と後半、どうお化粧が違うのかわからないのにね。不思議だね。
  • 衣裳、前掛けまで着付けて完成図。・・・よく考えたらこれは、舞台前のある時間なわけで。あれだけの舞台をされる前に、テレビの前で準備をしてポーズを取って・・・それから役に入る、とても大変で、とても精神のおっきくて強いところを見てしまった気がする。この幕開きが映ったところでも、スタジオから固い表情で見ていらした。
  • スタジオ外でのコメント(インタビュー)が、多かった。これはどこなのだろう? 照明の工夫で白っぽく、とても美しく映っていた。でも照明のためだけでなく、時々なんだかとても表情が柔らかくなって、いいな〜と思ってしまう玉三郎さんに「教われて幸せ。」とか、弟子入りしたばかりのころは「ほんっとに辛かった。」と言う時、そして初めて猿之助さんを見て「理想にピタッとはまった。」と話す時。固く目を閉じて、本当に小さく、小さくうなずいて、そして良い表情で声を出されるのだ。
  • 慣れてくればなんてことはないのだけれど、地声が低くていらっしゃる上にさらに低く、きしみがかなり入るのはなぜだろう。ご本人は、その方が楽なのだろうか。う〜ん、気になる声の持ち主だ(笑)。
  • 幼少〜研修生時代、それから入門したての頃の写真を何枚も見ることができました。なぜかカメラの向こうを見ているような視線のものばかりなのはなぜ? 口を開いて何かを話しているようなのはなぜ? 中学生の時は、髪がちょっとくるくるしていたのは意外。研修生時代のものは、目の周りなどお化粧が残っている状態に見えましたが、研修公演の後に撮ったもの、などなのでしょうか?
  • 再現ドラマの子役がかわいい! 春猿さんの子ども時代に匹敵する可愛さの子を見つけるのは大変だっただろうけど、これならOKかな。猿之助さん役は常に顔が隠れていたけど・・・恐れ多くて、こんな役できませんよね。
  • いつのまにか、小道具がまっ白いハンカチに。“暴走族”の話題のところなどで、両手で何度か折りたたんだり広げたりしておられたので、やっぱりそういう*3気性の方なのかも知れないと思う。小道具使いはお手のもの? 「ここにいる誰よりもきれい」と言われた時、ピーターさんから顔を隠すようにハンカチを広げた型は、袖を使った演技に似ていたのだけれど、無意識かな、というくらいきれいに決まっていた。

ものすごく楽しくて、いい番組だったと思う。細かい内容に突っ込んだらキリがない。とにかく、もっともっと見ていたいと思うような、感じのいいスタジオ・番組構成だった。どうしてもスッキリいかないところはたぶん、“主役にまで上り詰めた”サクセスストーリー仕立てにしてしまっているから、居心地が悪いのだろう。


予告MOVIEにあった「私って言って長いですから。」の場面と、亀姫の映像が全く(亀姫は鬘のところだけ・・・)流れなかったのは、ちょっと反則だと思います、フジテレビさん。


勝手につらつら思ったこと

  • 稲荷大明神へのお参りは、二礼二拍一礼なんだね*4。知らなかった。歌舞伎座の守り神がお稲荷さんだというのも。
  • 高校合格を条件に養成所の受験を許された、という話をしている時は、本当に真面目というか素直な表情でいらした。お母さま*5に感謝してるんだろうな、と思った。勝手な想像に過ぎないけれど、芯のまっすぐしていて強いお母さまと、それを受け継いだ息子、というイメージ。いいなあ、と思う。
  • もし私が中学の担任で、すっごいワルがいて、それでもその子がゆるぎない目標を持っていたとしたら。高校の担任で、入学してすぐに退学届けを出しに来たとしたら。私はその、自分の知識の範疇を超えた子どもを理解できるだろうか。理解できなくても、肯定してあげられるだろうか。


見終わって、興奮して寝付けないままにふと思いついたのがタイトルの通り、”彼にしかできない事”について。偉そうな話になってしまったらお許しください。
歌舞伎のためなのか? 個人のためなのか? 今年に入って春猿さんに“再会”した時、バラエティーの話などを知ってそんな念を持った。疑問を持ちつつ、何を目指している方なのかとっても興味がわいた。筋書きのインタビューを読む度に、なぜだかわからないけれど「この人(ニンゲン)から目を離してはいけない。」そんな気になった。


何を目指している人なのか。それは、彼にしかできない事、mission(使命?)とでも言おうか、そんなものにつながる気がする。そして春猿さんのそれは、「歌舞伎をみんなが楽しめる物に」という猿之助さんの精神を確実に受け継いだものであるのだと思う。そのためにどうするのか。現在“市川春猿”という名前を持っている一人のニンゲンを売ってでも、歌舞伎を残していく。そんな方法がある。
芸を伝えることなどは、そのかなり多くを家に生まれた役者が負うだろう。それに対して、どんな可能性でもあった彼だから、それでも歌舞伎役者になることしか考えなかった彼だから、容姿に恵まれた彼だから、人との付き合いに優れた彼だから*6。それらを生かして何ができるかを考えた時に、今の活動があるのではないだろうか。


今の活動って何? とか、どんな方法で? とか目指すものは? といったものは、ご本人にしかわからないことだと思います、もちろん。
春猿さんに限った事ではないですけれどね。たぶん誰にでもその人にしかできない事がある。missionがある。
私は、そう信じているのです。

*1:どうでもいいことですが、「テレビを拝見する」と書いている方がわりといて、何とはなしに違和感があります。上手く説明できないのがお恥ずかしいところ。

*2:・・・ん? なんで“憂い”なんだ?

*3:わりと落ち着きない?

*4:お稲荷さんも神社だからね。

*5:だけじゃないね。周りの方たち。

*6:努力などは置いておいて。