吉例顔見世 その1(昼の部)


伽羅先代萩」通し
すごい。大きなうねりが幕見席までをさらって行った。

その他の記録


13日追記 記憶が薄れて消えないうちに。
幕見と言いながら、ほぼ昼の部通してのお芝居。4階席で食事をするのはなんだかおかしな感じだったけれど、それ以上にあのタイミングでの昼食は心が痛む。詳しくは後述。

『花水橋の場』

  • なんだかよくわからないまま、だったけれど、福助さんの男姿がまずは嬉しい。色っぽささえ感じさせる鷹揚な動き、声も耳ざわりが良い。
  • 捕手たちは大きな立ち回りはないのだけれど、福助さん頼兼より”小さく”見えるのがおもしろい。サイズもスケールも。
  • 歌昇さん谷川絹臓は、へんな例え方をするならばテレビゲームのキャラクターのような強さ。なぜここで相撲取り? と思ったが、この時代は用心棒として使われていた、との解説。
  • 足利頼兼という人物をここで見たことで、鶴千代君の置かれている状況やその理由がよりくっきりした、ように思う。


『竹の間』

  • この場が上演されることは珍しいのだそうだ。私が歌舞伎に入り込んだきっかけ、マンガ歌舞伎入門*1ではここの場がとってもかわいらしく描かれていてとても印象に残っていたので、観られて嬉しかった。
  • 二人の子役がどうしても目を、耳を惹いてしまうのは仕方のないことでしょう。鶴千代君の下田澪夏ちゃん*2は花道の登場で揚幕の前から空気をさらい、それはもう若君の風格。動きも、特に奥の間に下がる時の歩き方など、前の場の福助さんの鷹揚さに勝るとも劣らない、と思ってしまった。さすがは”親子”役です。それはともかく、思っていたより年齢が低いのだろうか。歌舞伎役者にはなれないけれど、できれば立派な女優さんになってほしいもの。よく響く、いい声の持ち主。
  • 千松の原田智あき君*3は先月、芝居好きの丁稚さんを演じて喝采を浴びていた。心の演技がとってもよく伝わる。「それなら私も一緒に」という件など、母を慕ったセリフでも良いはずなのに幼いご奉公ぶりに客席からも感心の声が漏れる。
  • お芝居なのだから当然、セリフは決まったものだし先に続く言葉を知っているお客さんも多いはず。それなのに、演じている澪夏ちゃんや智あき君ではなく鶴千代と千松に自然と拍手が湧く、そんな感じだ。それにしてもこの二人、同い年の役なのに千松がずいぶん小さく見え、これなら取り替えることなんて不可能でしょう、と突っ込みを入れつつ笑い、そして泣いた。
  • 菊五郎さん政岡については、まだ気持ちの整理が付いていない。
  • 花道は見えないのだけれど、普段立役をされている仁左衛門さん八汐、三津五郎さん沖の井はその影が目に入った時から「おっきいな〜」とまず圧倒される。三津五郎さんは細めに見えるのだけれど。仁左衛門さんの恐さを既に観劇された方の感想で読んでいたのでそのつもりで見た・・・のだが、どうしても綺麗さが先に立ってしまう。目が据わったようなお化粧が、たしかに恐い。そして、体を相手役に向けながら顔だけ客席に向ける何と言うことのない女形の形なのに、不思議と八汐の形にしか見えないのだ。
  • 鶴千代君と八汐の”対決”。仁左衛門さんをタジタジにさせ喰ってしまう子役さんもすごいが、”喰われる”いえ”喰わせる”ことのできる仁左衛門さんはすばらしいのだと、そしてものすごい役者さんなのだと感じる。感じるというより、そんな空気の波のようなものが押し寄せてくる。
  • この場だったか次の場だったかはっきりしないのだが、八汐側の腰元で一番上手側にいらしたのはどなただろう? とてもすっきりと控えめな感じで、好きだった。
  • 鶴千代君と千松、腰元たち。政岡。松島。そして沖の井。最後に八汐。ひとりひとりに見せ場を作り、順に去っていく幕切れの作りがなんだか粋に感じる*4し、舞台から人が減っていくにつれて緊張感が高まっていくのもまた、良い。

幕間。お昼ごはんの時間。今月はイヤホンガイドが大サービスで、休憩時間の間中ずっと、時代背景などなど解説を聞くことができる(おかげでひと時も耳から離せないのだけれど)。その中で「お腹が千松だ」という表現が出てきて、前の竹の間から次の御殿の間まで、子どもたちはお腹を空かせているのだ、という話がある。それを考えてしまうとなんとも食べにくい。食べにくい・・・けれど、食べないわけにはいかないからお腹いっぱいお弁当をいただく。せめて匂いが舞台に、お芝居の中に伝わりませんように、と思いながら。

『御殿の間』

  • 前の場から奥の間に移った、ということで、気のせいか豪華なつくりに見える。
  • 中央の御簾が上がると政岡を中心に鶴千代君と千松の板付き。既に観客と心が通じ合った三人に大きな拍手。
  • 千松、有名なせりふ「お腹が空いても」に差し掛かるまで、本当に健気な心をよく表現している。切れ目毎に三度、拍手が贈られる。「ひもじゅうない」では声が裏返りかけてしまって笑いも起きるが、「良くぞ言った、千松。」と政岡ならずとも頷く。
  • この場面での菊五郎さん政岡、智あき君千松を見つめる姿がなんとも優しいのだな。お芝居の上では母親としての心を抑えて厳しくしつけているわけなのだけれど、その中でも優しい心が表れている場面なのか、はたまた難しいセリフを言い上げる幼い役者への眼なのか。


『床下』

  • 真っ暗な舞台に、富十郎さんがものすごい存在感。う〜ん。男之助だけどやっぱり富十郎さんにしか見えないな。。。
  • 待ってました、団十郎さん仁木弾正。残念ながらほとんどお姿は見えない。けれど面灯りに息を呑むほど感動し、そして・・・花道を引っ込む足取りが一歩一歩進むごとに、定式幕に写る影が大きく、大きく、大きく、、、なっていく。光との距離の関係、とわかってはいるのだけれどなんだか迫ってくるようで息が詰まる思いだった。

『対決』
『刃傷』

  • 段四郎さんが、良いなぁ。もともと好きなのだけれど、逃げる必死さ、弾正を殺す必死さ、勝元に応えようとする必死さ。そんなところがうるさくなく出せる役者さん、好きだ。
  • 弾正が外記左衛門に馬乗りになり、腕を膝で押さえる場面。これはもう、ひとつの地獄絵のようだ。

以後、続きます。

*1:

マンガ歌舞伎入門〈上〉

マンガ歌舞伎入門〈上〉

*2:yaeさん、情報ありがとうございます。六月の三越歌舞伎でのかわいらしさとお姉さんらしさが印象的でした。

*3:こちらもyaeさんの記事より情報をいただきました。あれ? どこかで彼の小僧さん姿を見た気がしたのは気のせいだね。

*4:こういう使い方であっているのかな?