国立劇場歌舞伎鑑賞教室

7月18日火曜日 午前の部

「歌舞伎のみかた」 市川男女蔵さん、研修生6名
 男女蔵さん、愛称“おめちゃん”は、茶髪のちょっと陽気なおじちゃん、といった風情。一階席にいた都立高校の生徒さんたちがとってもノリが良く、たのしくかけあっていました。研修生たちとの立ち回りで始まった解説、大向こうさんがいないためか、見得にも拍手をかけられず、そして唐突に終る。後見が出て身支度を整える間、しばしの沈黙が続いてしまったのが、もったいなかった。

 一言で、「研修生つかいすぎ」の解説だと感じた。それが、高校生に親しみを持たせる、というねらいにはぴったりだった。研修生たちにも、毎日(下手すると一日に二度)お客さんの前でトンボのお稽古、いや、演技をする、またとない経験だと思う。今年卒業する研修生は6人いらっしゃるのね。いかにも女形になりそうな顔立ち、風情の二人が高校生への女形指導に出てきたのには、驚くと同時に自分の目を褒めたくなった。
 高校生を実際に舞台に上げて行う研修生体験では、嫌がりもせずに、楽しそうに体験していた男の子二人。でも、「歌舞伎俳優になってみたい?」との問いには「いや、ちょっとやめておきたいっすね。」とのこと。そういえば国立でも、歌舞伎”俳優”と呼ぶようになったのでしょうか?
 研究発表会のVTR『修善寺物語』では、残念ながら全員の方が映っていたわけではない。桂役の方の声、やはりきれいな裏声を使っていたようだ。私の耳には、心地よいけど、昔から見ておられる方には、どうなのだろう。授業風景のVTRは、何期生のものなのだろう? もしかしたら、今有名になっている方が映っていたりして・・・。

 欲を言えば、六月にはつまらなく感じた舞台装置とか、音楽の説明をしっかりやってほしかった。解説が、スクリーン(なかなか、のPC編集技術)に頼りすぎていたのも、伝統芸能という観点からはもったいなく感じた。

『彦山権現誓助剣』
 この本名題は偶数文字なのね。外題は『毛谷村』。まあ、それは良いとして。国立劇場は、三階席でも舞台が近く、しかも赤系のライトで観やすいのがほっとする。歌舞伎座で苦労しているので、特に。


 一幕目は15分もない、短い(すぎる)もの。続きでも良いのでは、と思ったが、そうすると場転が大変。梅玉さん六助が、本当におっとりしている。子役玉太郎くんには、女子高生のざわめき&ため息が。“デビル”こと松江さん弾正は、六助を騙すクドキ(? なんて言えばいいの?)をもっと効かせて、聞かせて欲しかった。同時に舞台に立つことはないとはいえ、舞台裏ではお父さんの顔、ハラハラだったんでしょうね。


 二幕目の幕開きは、華やかでスカッとする場面。本舞台から花道まで、ずっと舞台が敷かれたのが気になった。。。その理由は、最後の方で明らかになる。歌江さんお幸は、声がすばらしい。ああ、これが・・・と、”感動”した。とにかく、よく通るし、言葉もはっきりしているし、老け役の声なのに透き通っている。語末の落ち着きもきれい。常に、少し腰を浮かせるように座っていらしたのが印象的。金包みを投げあうシーンは、本当に投げてはいませんよね? それぞれ、あらかじめ持っていたものを使った演技で。
 弥三松は遊び道具を曳きながら花道からの登場。あの小さな子には、さぞかし花道は長いことでしょう。客席は遠いことでしょう。賽の河原で石を積む場面では、見ほれるほどの型。その後、母を恋い慕う場面では女子高生から「かわいい〜」の声が漏れる、のも無理なし。涙が出そうになりました。パラパラと拍手。私も、音はさせなかったけれど盛大な拍手。添い寝する六助弥三松の側に、後見さんが。建具の後ろに隠れていたのだけれど、何だろう? 玉太郎くんの声は、もちろん子役の調子で話すのだけれど、甲高い声ではなく、ちょっとコントロールされているように聞こえる。地声が低いのか、はたまた御曹子の子役とはこういう声を出すように訓練されるものなのか。息がながーいのにも、びっくり。

 やっとの事で、お園の登場。虚無僧姿ということで、男性の声で話す。けれど芝雀さんだと思うからか、品が感じられる。「覚えがあるものの」のセリフで、六月、錦祥女の「いちいち覚え」「ある事ながら」を思い出した。ちょうど同じ調子で、でも声の高さと質は違う、不思議な感じ。正直、芝雀さんお目当てで行ったこの舞台。しかし、他の方々にも惹きつけられ、ベテランの安定感と芸を観た。他の劇場で地でかわいらしい方々を見てしまっていること、それから六月の気高く儚い錦祥女が頭に残っていたので、あまりお園の“初々しいかわいらしさ”を堪能できなかったのが残念。
 とはいえ、梅玉さん六助芝雀さんお園が並ぶと、恥じらいを含んだ甘い雰囲気になるから不思議。お一人お一人だとどうも落ち着きがありすぎるのに・・・。不思議。

   義太夫は、御簾内で太夫さん、出語りで太夫さん。六月に続き、太夫さんが聞けて&見られてうれしい。

 上手側に、えらく気前のいい大向こうさんがいらした。「みかた」では大向こうさんについて解説がなかったものだから、「高砂屋!」に、三階席の高校生はいっせいに振り向いていました。

 好きな春猿さんの舞台ばかり追いかけていると、どうしても目に偏りができてしまいそう。そんなとき、“とりあえず”の古典を抑えてくれる国立劇場は、とてもありがたい。ベテランのお芝居がみられるということも、重要。いきなり行っても安い席が手に入るしね。その点では、10月からの忠臣蔵はちょっと重たいかも・・・心配だ。