新橋演舞場花形歌舞伎 その2(初日・夜の部)

17日記
記録が遅くなったので、進行など間違えているところがあったらお許しください。。。というより、忘れてしまっていたらもったいないな・・・。

その他の記録

『時今也桔梗旗揚』
この演目、新作に近いものかと思っていました。史実と照らし合わせると、苦しいけれど興味深いお芝居です。


『本能寺馬盥の場』

  • とても地味で、落ち着いた舞台。時代背景もあるのでしょう。装置(内装)は豪華絢爛だけれど人は質素で、質実剛健な、そんな感じでした。”歌舞伎は単純明快でわかりやすい”という印象をちょっと変えたかも。メインとなる春永、光秀とも何を考えているのか、ウラがあるのかないのか、それすらわからない。ひたすらストイックなお武家さんだと思いました。
  • 内装は豪華・・・だったと思うのですが、ほとんど覚えていません。
  • オトコのお芝居の中で松也さん桔梗はパッと華やかに輝いていました。時々必死さが出すぎて、見ているほうが疲れるかな・・・という場面もあるにはありましたが、この役がなければ本当に救いのない苦しいお芝居になってしまっていたかも知れません。妹のとりなしも虚しく、、、もう、どうしようもなかったのかもという諦めを持って、後世の一人として舞台を見つめていました。
  • そういえば桔梗って外題にも入れられていますね。何か、重要な役割があるということなのでしょうか?
  • 海老蔵さん春永が高座に座る時、ふと前月の団十郎さんの姿と重なりました。こうしてみると特に似ていらっしゃるとも思えないのですが、ああいうところに御一人で世界を作るには、すごい力が必要なのでしょう。
  • 花道から、ぞろぞろぞろと春永に従う者たちが現れます。私の席からは花道が全く見えないので*1え、まだ出るの? まだ? と、笑ってしまうくらいでした。イヤホンガイドでの役紹介と割台詞が重なり、耳は大変なことに。でも、それだけの観衆の中でこれから起こるできごと。ただ事ではない、という気がしてきます。ずらりとそろった花道はさぞ壮観でしょう。
  • 春猿さん園生の局はものすごく良かった、と思います。私は、とても好きなお役です。ストイックで地味な殿方達の中で出すぎもせず、かといって小さくなっているわけでもない。むしろ、どっしりとしたお姿で舞台に安心感を与えていたような印象*2。春永の側に控える姿はとても落ち着いていて、俯き加減もこれ以上ないくらい”美しい”。
  • それにしても・・・おそらく、知らなければしばらく春猿さんだとは気付かなかったでしょう。花道でのお声を聞いて、何秒か迷ってしまったほどでした。それくらい、姿かたちも声の作り方も若いお役の時とは違う。本当にびっくりです。そんな中でも内掛けを捌く時などにせわしい感じが垣間見えたりして、「あ〜、やっぱり春猿さんだ。」とおかしな安堵をしていたのでした。
  • 場の名称にもなっている馬盥ですが、春永の高座に紅葉を活けて据えられてあります。その時点で、このお芝居の、というか春永の嫌らしさが表現されてしまっているように感じます。
  • とはいえ、お能で使う普通の桶だし、綺麗に活けてあるし、腰元がきちんと拭いているし、何が屈辱なのだろう、と首を傾げてしまうのは女の感覚でしょうか。


愛宕山連歌の場』

  • 今回上演された二つの場の前に『饗応の場』があるわけで、そこから通して光秀は春永(信長)暗殺を決心、そして史実である本能寺の変へとつながる。長い長い一日なのだな・・・とため息をつく思いです。
  • 寿猿さん連歌師、ここではそれほど物語に影響を与えるほどの人物ではないはずなのに、ものすごい悪党に見えて仕方がない。寿猿さんだと思って観るからいけないんですね、きっと。
  • 松緑さん光秀ですが発音が軽く子どもっぽく聞こえるためでしょうか、心情があまり伝わってこないのです。我が身のみならず妻まで侮辱された悔しさ、なのかな。次回は少しでも理解して観たいと思います。
  • 花道が全く見えないので光秀の決まりも見えず。この先の、悲劇(?)を思い浮かべます。

船弁慶

  • うまく言えないけれど、私にとって特別な演目です。中学生の時、始めてみたお能がこの『船弁慶』でした。子方の義経役が記憶に残っていました。それと、能舞台の柱に囲まれた不思議な空間と。今回は、そのどちらもない。
  • 幕が開くと正面にずらりと鳴り物の皆さんが。『勧進帳』でも感じたけれど、それだけで期待感が全く違います。
  • 梅枝さんの、きりりとした義経。でも細身で、どこかに子どもっぽさが残っています。
  • 静御前は能面のような顔で、ということだけれど菊之助さんは本当に人形のような近寄りがたい清い雰囲気が漂っています。。。とはいえこの方・・・セクシーダイナマイト・・・だわ。
  • 一転、後ジテで知盛の亡霊として出てこられた時は美しいだけに、ものすごく怖さを感じました。お能では、大きな長刀を使った立ち回りがあったように記憶していますが、それがなく踊りだけ、というところに美しさ、というのかな〜、身ではなく心や魂のようなものを見ている気がするのです。

あとはまた、しっかりと目に焼き付けてきます。

義経千本桜』川連法眼館の場

  • これもまた、いろいろな意味で特別な演目。私にとって初生歌舞伎の演目でもあるし、団十郎さんの狐を目の当たりにした思い出の舞台でもあります。猿之助さんの狐忠信がどんなにすばらしかったかは自分で観たかと錯覚するほどお話に聞いています。もちろん今回は海老蔵さんの狐、という話題作でもあるわけです。そして何より、吉野山に咲き乱れる満開の桜!
  • 幕開き、まずは舞台全体に散りばめられた”春”を満喫します。残念ながら舞台前面に吊られている桜は見えませんでした。そしてついつい、装置をチェック。階段は仮階段だぞ、とか欄間抜けの口*3が切ってあるぞ、とか。
  • 欣弥さん川連法眼延夫さん。ひそかにゴールデン夫婦だと思っているお二人です。特に延夫さんの何と言うのでしょう、熟年の夫婦っぽい女房ぶりが好きです。
  • 笑三郎さん静の登場! 若々しくてとっても可愛いのですが、ここでは少し醒め気味に感じます。段治郎さん義経と駆け寄るような場面は、とても良くてほわっと来ました。
  • 海老蔵さん忠信(本物)の出、こちらも若々しく、好青年といった印象。殿内の義経と静に向かって平伏するのを見ていたらなんだか、可笑しくなってきてしまいました。お芝居の上とはいえ、海老蔵さんが笑三郎さんと段治郎さんに頭を下げているんだからな〜、と。
  • 偽忠信の詮議のため、一人残る静御前。長身でいらっしゃるからか、鼓が小さく見えますが、もちろん本物の鼓をお使いのはず。笑三郎さんの静は実際に拝見したことはないものの、写真で見知っているような気がします。でも、そのどれとも違う、少女のように可愛いお姫様でした。
  • 鼓を合わせるのは田中傳左衛門さんだったそうです。本当に、息がぴったり。
  • 鼓の音に誘われ、登場した狐忠信は・・・おっきい・・・。圧倒されました。でも同時に、見開いたような、それでいて切れ長な目が猿之助さんそっくりで嬉しくなります。三階席に居ながら「出があるよ!」*4の声がしっかりはっきり聞こえて、「さあ、始まるぞ」というようなわくわく感が起こります。
  • 狐の情愛と静・義経の優しさに感動する・・・と言うよりは海老蔵さんがひとつひとつの見せ場(?)をどうこなされるか、をハラハラしながら見つめる時間になってしまったことに反省。渡り廊下にひれ伏している時には「何かごそごそしているぞ。あ、狐になった。」とか、「忠信が顔を出したぞ。ここでは表情を引き締めて本物らしさを出すというけれど・・・。」とか「欄干渡りOK!」「欄間抜けOK! あ、体操競技の着地みたいだ^^」とか。
  • 楽しそうに、そして悲しそうに鼓にじゃれたり激しい動きをしている子狐を、義経と静は何ともいえず優しく、やさしく見つめているのです。それはそれはやさしい。えらそうなことを言うようだけれど、例えれば大事に大事にしてきた”卵=お家の型”が孵って、”生まれたばかりの我が子=伝わる芸”を見守っているような。
  • 以前どなたかの感想で「猿之助さんの子狐は連れて帰って飼ってしまいたいくらいかわいらしかった。」とありました。だから、鼓を与えられて嬉しそうに転がす場面はとっても楽しみにしていた、のですが・・・。じゃれて甘えているというよりは、嬉しさと元気があり余って興奮のあまり鼓で遊んでいる感じがするのです。たぶん、私のイメージより海老蔵さんの狐は大人、な感じなのでしょうね。
  • 場を静め、次の場への新たな期待を高める腰元たちの会話。さすがに、役者さんたちをだいたい見分けられるようになったのが楽しい。といってもほとんどは、身長と声での判断です。お一人、京屋さんから出ていらっしゃいましたが、お化粧をすると猿紫さんとそっくりで驚きました。いえ、猿紫さんも容貌といい雰囲気といい、かなり独特だと思うのですよね・・・。
  • 宙乗りは、心配することもなくすんなりと飛びました。嬉しそう、というよりどこか幸せそうな海老蔵さんの表情が、よく見えました。そう、ここはもう狐忠信ではなく海老蔵さんだったと言ってもいいのではないでしょうか? 三階席中央のでっぱりにお姿が隠れてしまって緊張が解けた瞬間、鳥屋からピンクの花吹雪がぶわっと。最後に、心までピンクになりました。

楽屋に戻られるはずの海老蔵さん、足取りが気になったのですがさすがに昼夜通しで疲れ、しかも遅い時間になっていたので上手側からまっすぐ帰途に着きました。


演舞場からすぐの地下鉄口には入らず、夜の歌舞伎座を少し不思議な気分で遠めに眺めて歩きました。ちょうど正面に差し掛かったとき、劇場の電気が消され、それもまた不思議な気分に拍車をかけた気がします。ちょうど時刻は21時を回った頃でした。

*1:上手側最後列^^;

*2:・・・・・・だから私は、「園生の局って乳母か何かかな?」とすっとぼけたことを考えてしまったのでした。

*3:ものすごく小さく見えたので、本当にここから抜けられるのか心配ではありました。

*4:一度、後方花道横を取った日があるから振り返ってみようかしら。わざと騙されるのも楽しみのひとつとしておもしろいかも。