上げるか下げるか・・・止めるか!?

以前の記事(こちらとか)で台詞回しとイントネーションについて勝手な事をいろいろと書きました。そうしたら、最近読んだ本におもしろいことが書いてあったので、まるごと引用します。

有名な本だから、ご存知の方も多いかも?

女形といえば、たれもが気づいていながら、たれもがそれと強調しない点がある。それは、女形のせりふのアクセント、イントネーションだ。
 生粋の江戸の芝居である「助六」で、ヒロインの揚巻のせりふは、ほとんどが上方弁のそれである(現実の「廓(さと)ことば」を、明治以降、できるだけ上品ぶって消していったのとは、また別の線である)。
「子ゆえのミ」「どい」「きとみ」「たじゃ」「じょろうはみ」「ざんせ」
この丸印をつけたところ(太字にしたところ)が高いアクセントで発音される。
 意休の子分達は、全て江戸弁であるのに、女形は上方訛り。
 これは明治の「髪結い新三」でも、お熊は上方ふうで、忠七も「連れ立って」と一か所だけ上方ふうに発音する約束なのは、忠七が一種の和事師のニュアンスを持つからである。
 つまり、女形は、悪婆という役柄をのぞいて、全て上方ふうの、いわば女形弁をしゃべっている。これは、女形の出自と経由を示すものにほかならない。上方から女形を輸入していたかぶきの歴史の証明である。

落合清彦 『日本の芸シリーズ―歌舞伎の芸―』
(S.58.10.25 東京書籍 pp.176 l.1~12)