七月大歌舞伎(泉鏡花) その9 『天守物語』

駆け込みに近い形で、最後の七月分レポートです。


7月24日月曜日 & 7月31日月曜日(千穐楽
関連記事:2006年8月22日


24日は以前にも書きましたが、留学生の友人を連れて幕見席から。客席の熱気が迫ってきました。

31日早朝から4つほどの用事を掛け持ちし、最後の力を振り絞って。楽しませてくれた全ての人に、ありがとう、と言いたかった時間でした。


いつものことではありますが、「事実」と「感想」と「希望」の入り混じったものになっています。

また、例によって特に役者さんの名前が書いていないものは、春猿さんについての記述であること、ご承知置きください。

さらに。基礎情報・・・つまり出演者、筋書きなどについて歌舞伎座情報ページ、及び他の方のすばらしいブログをご覧になることをお勧めします。どうも、苦手なんですね・・・。

天守物語』

無事に、良い終わり方ができるように、手を合わせて祈る。そして、幕開きを待つ。

この舞台は、“理解しよう”とか難しいことを考えずに全身で“楽しむ”ことに何の罪悪感もない。


 いつものとおり唐突に、歌が始まる。日を追うごとに声に無理がかかっていたような女童たちだが、楽ではとても純粋に、まるで初日であるかのように聞こえた。全体を通して、作りこんだものを全てそぎ落としたかのようなすっきりとした印象があった。

 “出たら拍手、キメたら拍手、引っ込んだら拍手”を、思う存分楽しめた最終日。これまでのフラストレーションのようなものを、一気に発散した、、、かも。拍手をしたい、そしておそらくは役者さんもそれを期待しているところに応え、笑うべきところで笑う。そんな、呼吸が一つになるような舞台は、楽しい

 もちろんその筆頭は富姫の登場。許されれば毎日でも「待ってました!」と言いたい。そして、「似合ったかい?」これは、今回(今年)に限らずいつも笑いが起こるのでしょうか? もちろん悪意のない、楽しい一瞬。初めて気がついたことだが、ここでの富姫の髪飾りは木彫りの牡丹の櫛。ああ〜、仕込みが細かいですね!


 一番好きになったのが長煙管の場面ですね、やっぱり。キセル富姫に返した後、ちょっと指先で唇を拭う亀姫の仕草がとても好きでした。唇が可愛らしいから、よけいに。この舞台はやはり歴史物だから、座に着いてからお扇子を据えるとか、裾捌きのときの足の運びとかいった基本的な動作が見られて、心が喜ぶ。あ、富姫と亀姫のお扇子の扱い(膝の上での据え方)が少し違ったのは、どうしてだろう。上下関係で、変わるのかな? もっと、勉強したいと思う。

 “例の”じゃれあいの場面では、「ご勝手」と扇子を落とした後、24日にはそっぽを向いて思いきり拗ねる亀姫がこの上なく幼く、この上なく愛らしく感じた。それなのに楽では富姫のほうに身体を向けて、まるで「慰めて下さいな」と言っているよう。全く違う演技で、感じさせる愛しさ、みたいなものも全く違う。上手だな〜と魅き込まれていました。


 亀姫に対しては姉らしく、腰元たち禿たちには主人らしく、気遣っている富姫も大好きになった。印象に残っているのは、煙草盆をさりげなく(亀姫と会話しながら!)下手側後ろに押し遣ったこと。笠や鞠を禿に渡す・受取る時に優しく首をかしげたこと。舞台を見慣れている方には当然の演技と映るかもしれない。しかし私には、偉そうな事を言うと、座頭としての玉三郎さんのお姿だったのかもしれないと思えた。


ここまで前半と、このさき後半が、どうしても別のお芝居のように思えて、頭の中でも別々の部屋にしまわれています。

 それと対比して、後半の富姫は内面にとても向いていたのだろう。前半はまだ女になっていない、という解釈もあるけれど、そうではないと私は思う。だって、舌を噛み切って死んでまで操を守った女の人・・・なんでしょう? (実はこの説も、原作にはないので本当? と思うのだけれど。鏡花がそう言っているの?)以外にはおそらく見せないのであろう感情の部分を、前半は隠しているのだろうと受取っています。


 だんだんと、富姫図書之助守る、守られる立場が入れ替わっていく不思議さ。獅子の力がなくなった時から? そうでもない気がする、根拠はないけれど。後半の富姫は一ヶ月に渡って変わらない。あ、始めの週とそれ以降で”つかみどころのなさ”が少し変わったかな? 相手役の違う前半とは違って、年月を掛けて完成しつつある一場面なのだろうと推察します。


 追手獅子の立ち回りでは、獅子が“舞台(能舞台のような部分)”から降りての大暴れ。楽限定、のように思いましたがどうだったっけ?


中途半端な終り方で申し訳ない。この後なにか原稿には書きかけているのですが、思い出せないので追記ということで・・・。

 歌舞伎の、そして歌舞伎座での楽はもちろん初めて。以前にミュージカルの初日と楽に居合わせたことがあって、そこでは座長の挨拶があったのでそんなものかな、と想像していました。意に異なって、完全なカーテンコールです。組み立ても、オペラっぽかった。幕が開いた瞬間勢ぞろいしていた追手たちが一瞬、『夜叉ヶ池』の眷属に見えて驚きました。えっ、全演目?って。

 海老蔵さんは完全に図書之助が抜けたような笑顔でおられました。玉三郎さんについては、ステージマナー完璧でそれ以外はわからず。門之助さんは・・・(笑)。亀姫、いや、春猿さんは上手からの登場。表情も感情もない、お人形のようでした。前に挨拶している猿弥さんの真後ろに立ち、プレッシャーをかけているようでちょっと笑ってしまいました。上手に、下手に、そして正面に体全体を傾けて。全員そろっての挨拶が感動的でした。



<おまけ>

 楽屋口から、もう道具を運び出している。金井小道具さんのトラックと、なんと勘三郎さん襲名披露公演の大トラックが。学生の頃ちょこっと舞台に加わっていて、公演の夜は徹夜で片付けたことを思い出しながら帰途に着きました。


入梅と共に始まり梅雨明けで終った七月、気がつけば夏真っ盛りです。