Pan doktr

加藤剛さん、俳優座演じる『コルチャック』の朗読劇に行って参りました。数年前に、舞台があったと思うのですが行く機会がありませんでした。今回は二週間前に公演のことを知り、その数日後に偶然、大学の恩師からお知らせをいただいたので、迷わず行くことにしました。
会場は東京・上野の国立博物館内。以前、川田知子さんの演奏を聴きに行った場所で、あそこで演劇? と不思議に思っていたら朗読劇だったわけです。
朗読劇と言ってもかなり動きがあるもの。オペラや歌舞伎といった様式的な演技をする舞台を多く観ている私の目には、小さな空間に大きな感情を表わす演技がとても新鮮でした。


『コルチャック先生』、これは一度は触れておかなくてはならないと思いつつ今迄きてしまっていました。

第二次大戦中、ユダヤ人の孤児たちを教育するホームで子どもたちの父親であることを使命としていた”コルチャック”。子どもたちがトレムリンカの絶滅収容所に送られようとする時、医者・文筆家としての社会的地位によって差し伸べられたへの手を振り払い、彼らと最後まで居ること、すなわちを選んだ。

これが知られている、そして私も知っていたコルチャック先生の姿だ。今回の舞台ではナチスから子どもたちを守ろう、とか自分の身を犠牲にして、という部分よりも教育家としての優しい姿が心に残りました。加藤さんの笑顔が又、優しいのですね。最後のほうで弱いスポットになったときは、ヨーロッパ人の老紳士が立っているようにさえ見えました。

  • 夜、眠っている子どもたちを見回る。台本を丸めてろうそくに見立て、それを灯りにして暗い空間を照らしていく。物語の中でも最も幸せな時期で、私も暖かい気持ちでじんわりと来た。
  • そして彼は子どもたちから、親しみをこめて「Pan doktr(パン・ドクトル=先生)」と呼ばれる。
  • 小さな動きが表現しうること。カーテンコールでひととおり挨拶が終わった後、9人の出演者全員が下手側に体を向ける。観客も、自然とそちらに目を向ける。そこには、BGMとして演奏をし続けていた2人のギタリストがいたからだ。

恐怖や孤独にふるえていた小さな子どもたちがいたことを。彼らの中でほんの一握りだけれど、暖かい愛情に包まれた幸せな子どもたちがいたことを。哀しみと、喜びをもって思い返してみる。