吉例顔見世大歌舞伎 その2(昼の部)

友人の友人、が歌舞伎を観てみたいとのことで、ホスト役を引き受けました。いろいろ相談するうちに一等花道外、しかも七三真横。お昼はかぶきそばで天重、というなんとも贅沢なツアーとなりました。

その他の記録

      • -

通し狂言 伽羅先代萩
『花水橋の場』

  • 福助さんのお姿を間近で見てしまったことも、諸士の方々がとっても表情豊かだったことも刺激的だった。けれど、一番感動したのは幕切れでひっこむ福助さん頼兼が花道に近付かれた時、とっても良い香りがしたこと。本当に伽羅の下駄をお召しになっているのかと錯覚したほど。ふわ〜っと良い気分になりました。
  • 角力絹川谷蔵が花道で決めた時、肉襦袢が触り心地よさそうで・・・手を伸ばしそうになるのを我慢しました(笑)


『竹の間』

  • 花道を通る子役さんたち、特に鶴千代君の下田澪夏ちゃんが予想以上に小さいのにびっくり。
  • 澪夏ちゃんは、下手側から見ると本当に口をしっかり開け、視線も菊五郎さんとぴしっと合わせていて、頼もしい子役さんです。
  • 八汐、沖の井、松島の出。お三方とも、本当にすばらしい刺繍の内掛けをお召しです。”ふき”の部分を目の前にして、息がかかってしまいそうな気がして大変でした。そして、白地の内掛けの背中から響いてくる仁左衛門さんのお声・・・。不思議と、どなたにも男性っぽさや圧倒されるほどの背の高さは感じませんでした。
  • 秀調さん、この方の声は本当に好きです。
  • 八汐は、初日に比べて滑稽さ(と言っていいのでしょうか?)が増したような気がしました。マンガの『いじわるばあさん』が、ふと思い浮かんでしまったりして。でも、初日に比べて鶴千代君に言い負かされても余裕がある感じで、そこはさすが調整されているのだと思いました。
  • 御膳を検める沖の井がお懐紙を咥えるのは、武家の作法のひとつだそう。口紅が付いてしまうのでは・・・と思っていたら、さすがは我が友人です。「あの場面、口紅が付いたままのお懐紙を懐にしまっていたけど、いいの?」と質問してくれました。いいのかなぁ。。。
  • 右之助さんは、間近で見ても小柄。他の方々と比べてしまうから、ではないと思うのですが・・・。そういえば、ここでのお槙は”切り髪”の鬘だそうですが、夫の大場道益が殺されていることはわからないはずなのになぜ後家の髪型なのでしょうね?
  • 鶴千代の脈が良くない、とのことで廊下=花道で再度診察。ここでは政岡が鶴千代君を膝の上に乗っけているのですね。政岡、お槙とも若君を大事に大事に扱っているのがほほえましい思いでした。さらに、ことあるごとに菊五郎さん、澪夏ちゃんの耳に何事か囁いておられるんですね。動きのきっかけを作っているのか、それとも政岡としての演技なのか・・・緊張感の漂う中だけれど、本当に暖かいひと場面でした。
  • そうそう。いつまでもどこまでも若君にお仕えする覚悟の智照くん千松。この場面では本舞台下手でしっかりお仕えしています。目の前にいた友人は彼が可愛くて可愛くてしかたなかったそうです。
  • 天井から飛び降りてきた曲者、弥十郎さん! ふてくされたように腕を組んで横を向く表情、どこかで見たな〜と思えば先月、同じように間近で見つめていたのでした。客席は爆笑しているのに、それに気付かないかのように(当たり前ですが)苦虫を噛み潰したような顔をしていた家主さん。ずいぶんと若くなられましたが、あの味はそのままです。
  • 菊五郎さんの退場、襖の奥で角を曲がる瞬間、見てはいけないものを見てしまったような・・・。
  • 幕切れでの三津五郎さん沖の井、八汐の方を向いているのでお顔がとても良く見えました。楽しそうな、とっても明るいお顔がなんとも色っぽく、愛らしい。その動きと言い、襖の向こうに消えるまでばら色の軌跡が漂っているようでした。

幕間は、お昼ご飯をいただきながら内掛けと福助さんの芳香の話で盛り上がりました。三人ともイヤホンガイドを耳に入れたままの会話。座席に戻る途中、「子どもを犠牲にしても忠義を尽くす政岡・・・」との解説に思わず友人は足を止め、顔をこわばらせていました。

『御殿』

  • 今でも、筋書の舞台写真で政岡の顔を見ると胸がぐっとつまってしまう。そんな一幕。
  • 千松の声がかなり辛そうで、ああ、一ヶ月間がんばってきたんだな。よし! と手に汗を握って台詞に聞き入ります。「忠義が済んだら・・・」ではやはり、ほろりと来てしまうんですよね。感動屋の友人、ハンカチを持ってきてね、と言っておいたのですが、このあたりで早くも鼻をすすり始めていました。
  • 八汐、ではなくて栄御前に先立つ腰元のお一人に京三郎さんが。筋書でお名前をチェックした時「やっぱり!」と叫んでしまいました*1。今回は主となる腰元ということで、仲立ちの時に残って襖を閉めたり、政岡の呼びかけに応えたり、とたくさん働いておられました。
  • 田之助さんの栄御前は、私にとってこれ以上ない好配役、というのはおこがましいかな。とにかく、イメージにぴったりなのです。世の中思い通りにならないことなどなくて、それでもいつも不満がくずぶっていて。そんな、現代にも通じる女性。
  • 「サア」「サア」「サア」の掛け合いで、今回の役者さんたちはすばらしく息が合っているように思えてなりませんでした。お互いに一部の隙もなくて、緊張感が長い時間続いて、ぐぐぐーっと引っ張られてしまうような錯覚に陥りました。
  • お菓子は、本当に綺麗な色・・・黄色、紫、黄緑のものが並べられています。あのような着色が可能な時代だったのかな? とちょっと疑問には思いました。
  • 千松が刺される瞬間に腰元たちがさっと後ろを向くのに気付きました。中心人物をクローズアップする効果も抜群、そして「見ていられない。」という雰囲気でもありました。
  • ここの政岡の台詞を聞くたびに思う・・・。千松がこの世で最後に聞いた母の言葉はなんだったのだろう。
  • 政岡、千松を残してすべての女性たちが退場すると・・・急に舞台が広く見えます。ここからはもう、菊五郎さんの心臓の音まで聞こえそうな距離での演技です*2。花道奥を見つめる大きな目がキラキラ濡れていて、その目に映っている廊下の奥までが見えそうな気がして。必死で立とうとしても立てないでもがく、それでも衣装、特に裾が全く乱れなかったのが今思い出すととっても気丈な感じがよみがえってきます。ようやく立ち上がり花道に差し掛かったところで汗がぽたり。
  • ともすればお芝居の時代、場面の一員になってしまいそうなくらい引き込まれて怖くて、必死で菊五郎さんの素顔を思い浮かべますが。ダメでした。政岡の緊張が溶けていくにしたがって、去っていく栄御前の籠を担ぐ足音が低くなって行くのまで想像できそうな数分・・・いえ、数秒間でした。
  • 千松を前にしたクドキ、特に袱紗を使っての表現と「同じ名前の千松は 百年待ったとて 千年万年待ったとて」の二ヶ所が本当に、ほんとうに好きです*3

*1:9日の記事を参照ください。

*2:このときの感動と衝撃を残しておくために、この記録を書いているのかも。

*3:ここをもう一度見たさ、聞きたさに千秋楽・・・